国交省の調査によれば、住宅の各要素ごとの不満率は、「賃貸住宅」と「持ち家」を比べると全ての面で10ポイントぐらい上回っています。例えば「遮音性」は、持ち家が41.1%で、賃貸は61.5%となっています。
実際の賃貸住宅選択に当たっては住宅の質については軽視する傾向が強いようです。
日本賃貸住宅管理協会の調査によれば、賃貸住宅選択にあたって重視するものは
1位 「家賃」(90.3%)
2位 「間取り」(78.0%)
3位 「立地」(59.9%)がベスト3で、
4位 「一時金の金額」(26.5%)
5位 「原状回復特約」(7.8%)
6位 「収納」(21.4%)
7位 「防犯」(14.2%)などはいずれも低い。
8位 「バリアフリー」は0.3%にしか過ぎない。
質の高い賃貸を選ぶために家賃が高いほうを選ぶ賃借人は富裕層ぐらいでしょう。家主にとっても、質の向上は二の次で、投資利回りを最優先して考えるということは言うまでもありません。
さらに言えば、持ち家と賃貸に対する住宅政策の偏りの問題もあります。どう考えても、わが国の住宅政策は持ち家偏重です。ただ、最近は、質の高い賃貸住宅を建設することが賃貸経営にとって有利であることに気が付いたハウスメーカーも増えてきています。
入居者を惹きつけるための小規模リフォーム
付加価値アップ(グレードアップ)
①建物・エクステリア
1)外観の色を統一(汚れが目立たない外壁材を使用)
2)名称を変更
⇒ 〇〇荘 →メゾン・ド・〇〇
3)効果的なネーム看板に変更
⇒ 大き過ぎず、目立ち過ぎないものを選ぶ
⇒ 高級感を出す
4)効果的な照明を設置
⇒ 雰囲気を和らげる白熱灯を使用
⇒ 取り付け位置を工夫し、間接照明のような演出を行う
⇒ 落ち着いた雰囲気を醸し出すために、アンティークタイプを使用
⇒ 場所は、玄関・エントランス。駐車場、階段の上・下、通路、外灯
5)求心力のあるシンボルを設置(近隣に認知され、ステータス化に繋がる)
⇒ツリー、アパートネームの入ったゲート、おしゃれな外灯など
6)ウッドデッキ(1階のみ)の設置
7)中庭の設置
8)子供の遊び場の設置
9)緑地の設置
②室内
1)個人の居住空間
- キッチン
- ガスコンロ(2口以上)
 - システムキッチン
 - カウンーキッチン
 
 
- バス・トイレ・洗面台
- バス・トイレ別
 - ゆったりとした浴槽
 - 追い焚き機能付きお風呂
 - 浴室乾燥機
 - 洗浄トイレ(ウォシュレッド付きトイレ)
 - ハンドシャワー付き洗面台(シャンプードレッサー)
 - スロップシンク
 
 
- リビング・ダイニング・寝室
- フローリング
 - コンセントの数を増やす
 
 
- 収納
- 下駄箱
 - 床下収納
 - ロフト
 - 屋根下収納
 - ウォークインクローゼット
 
 
- 設備関連
- エアコン
 - アルカリイオン浄水器
 - 床暖房(ガス温水式など)
 - 陽よけアマド
 - オール電化(IHクッキングヒーター、エコキュートなど)
 - IT化(インターネット常時接続サービス、マンション専用のHPサービス、ヘルプデスクサービス、メンテナンスサービス)
 - 防音対策 (外部からの騒音に対して、上下階からの音に対して)
 - 多チャンネルサービス
 - ケーブルテレビ、集合BSアンテナ
 - メンテナンスリース(エアコンや給湯器などを借りるシステム)
⇒ 理由:税金やクレーム対応の手間がかからない計画的な経営トレンドに合わせて設備を更新できる 
 
- 内装
- 高機能木炭塗料
 - 造りつけ家具
 - 間取りの自由性
 - 光触媒コーティング(外壁、内壁、ガラスなどの汚れを防止)
 
 
- セキュリティー
- ドアスコープ
 - ピッキング対策用鍵
 - 防犯シリンダー
 - 補助鍵(ドア・窓)
 - ドアチェーン
 - 窓ガラス用防犯フィルム
 - センサー付き窓ガラス
 - センサーライト
 - TVドアホン
 - オートロック
 - YVモニター付きインターフォン
 
 
2)共同施設
- 太陽光発電システム
 - 風力発電
 - トランクルーム
 - コインランドリー
 - 駐車場(無人管理システムなど)
 - 宅配ロッカー(ボックス)
⇒ 宅配物の受け取り・発送機能をもったものと受け取り機能のみのもの。操作方法はカード、暗証番号、鍵など - 監視カメラや遠隔監視システムなど(出入口と駐車場、ゴミ置き場など)
 - 警報機
 - コイン簡易洗浄システム
 - 無人管理人システム
 
質の高い賃貸住宅の普及を妨げている要因の一つとして、入居希望者が、賃貸住宅を選択する際に、グレードアップや修繕の実施状況などを重視していないことから、その部分にコストをかけても市場で評価されずコストを回収できないと家主が考えているのではないかと推測されます。また、そのような入居希望者の傾向は、民間賃貸住宅の耐震性等の情報や修繕の実施状況などに関する情報を物件選定段階で入手することが容易でないということも一因と考えられます。
大谷昭二(日本住宅性能検査協会理事長)
参考資料

